UNeCORN

古今東西の不思議なものを集めて展示するWEBアーカイバ・UNeCORN(ユネコーン)

ドルイド信仰

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自分の叔父は、仕事柄、船で海外に行く事が多かった。

詳しい事は言えないが、いわゆる技術士だ。

1年の6~7割は海外(特に北欧)で仕事をしている様な人で、日本に帰って来ている時はよく遊んでもらったものだ。

今は既婚で、引退して悠々自適な生活を送っており、知識も豊富でバイタリティ溢れる快男児だ。その叔父に、こんな恐ろしい話を聞いた。

 

 

当時叔父は30代で、彼女とマンションに同棲しており、幸せに暮らしていた。

ひょんな事から、お隣さんと親しくなったらしい。お隣さんは年配の夫婦で、病気の子供が1人。

旦那さんも仕事柄、海外に飛ぶ事が多いとの事だった。話題も合うと言う事で、叔父とは意気投合し、その奥さんも温厚で、夕食に呼んだり呼ばれたりする仲にまでなったそうだ。

ある年の真冬。 

そのご夫婦と賑やかな食卓を共にしていると、そのご夫婦の別荘の話題になった。

何でも、関東近郊の閑静な山奥に、別荘を1つ所有しているらしい。

近くには小川もあり、魚等も釣れ、年に1度は家族で、病気の息子の療養がてら遊びに行くらしい。

どうやら今年は仕事の関係で行けなくなったらしく、叔父達に、良かったら使ってくれても良い、との事だった。

アウトドア好きな叔父は、喜んで使わせてもらう事になった。そんな叔父と趣味も合った彼女も賛同したらしい。

そして、翌年の年明け、叔父は彼女と共に、その別荘へと向かった。

 

あまり舗装されていない山道を、40分ほど登った場所にその別荘はあった。

別荘を目にした途端、彼女の溜息が聞こえたそうだ。感動ではない方の。

「ホント、掘っ立て小屋みたいな感じだよ。こっちは小洒落たロッジ的なモノを想像してたんだけどな。あの夫婦の説明を聞く限り、誰でもそう思うと思うよ」

叔父は苦笑しながら言った。とにかく、その「別荘」はお粗末なモノだったらしい。

 

木造平屋で、狭い玄関。猫の額ほどのキッチン。古びた押入れに入った布団。

暖炉がある広間がやや広い事だけは救いだったらしい。

来てしまったモノは仕方がないので、なるべく自分達が楽しむ事にしたと言う。

昼は川魚を釣ったり、近辺の林を散策し、野草を採ったり。

それらは夕飯には天ぷらとして食卓に並び、それはそれで楽しい夕飯だったそうだ。

 

「野草を採ってる時に、かろうじて遠くに別荘が見えるくらいの距離の、少しだけ森の深くに行ったんだが…その時にちょっと気になるモノがあってな。ナラ(楢)の木があったんだよ。クヌギなんだけどな。この森にクヌギの木ってちょっと浮いててな。周りは違う種類ばかりだし、明らかにそこだけ近年植林したんじゃないかなぁ。上にヤドリギも撒きついてたよ。クヌギは10年も経てば、大きくなるからな。で、気味が悪いのが、そのクヌギに何か文字が彫ってあってな。オガム文字って言ってな。古代のドルイド(上記参照)等が祭祀に使ってた文字なんだよ。横線を基準と見て、その上下に刻んだ縦や斜めの直線1~5本ほどで構成されててな、パッと見文字には見えないんだが…ま、何て書いてあるかまでは分からんが、不気味ではあるよな。日本だぜここは」

叔父の様にオカルト方面に知識がある人から見たら、確かに不気味なのだろう。

そんなこんなで、その日の就寝の時に事件は起こった。

 

叔父が窓や玄関の戸締りを確認しようとしていた時の事だった。

「何で最初に気がつかなかったんだろうな。鍵がな、外側にもついてるんだよ」

つまり、窓の内鍵とは別に、窓の外側にも鍵がついているのだ。玄関の入り口の戸にも。

「これはヤバイ、と思ったな。部屋の中に家具が異様に少ないのも実は気になってたんだよ。生活に必要最小限のモノだけ…それも、全て木造で燃えやすく…パッと思い浮かんだのが、ウィッカーマンだな」

 

映画にもなり、近年リメイクもされたのでご存知の人も多いと思うが、上記でも書いた様に、

「柳の枝や干し草で作った編み細工の人形を作り、その中に生きたまま人間を閉じ込めて、火をつけて焼き殺し、神に捧げる」

と言うおぞましい秘儀が、古代ドルイドの祭儀であるのだ。

それを英語では「ウィッカーマン(wicker man)」、編み細工(wick)で出来た人型の構造物、と言うらしい。

「彼女を不安がらせない様にその事や鍵の事も秘密にし、俺だけ起きてる事にしたよ。全部の内鍵開けてな。そしたら、夜中だよ」

 

砂利を踏む音と、人の気配が別荘の外でした。すかさず窓を開ける。例のお隣の夫婦の旦那だった。

「何をなさってるんですか?」

叔父に急に見つかり、厳しい声を投げかけられた旦那は、驚愕の表情でしどろもどろだったと言う。

「いや、その…大丈夫かなと…」

「大丈夫じゃなないですよ。その缶は何です?灯油の缶じゃないんですか?」

「い…いや…ストーブの灯油を切らしちゃいかんと思ってね…」

「暖炉がありますよね?」

「いや…まぁ」

叔父は、外鍵の事を厳しく追及した。

旦那が弁解するには、この別荘も人から譲り受けたモノで、外鍵はその当時からついていたらしい。

「信じるわけないわな。そんな気味の悪い家で誰が泊まりたがる?」

叔父はまったく旦那の言う事は信用しなかった。

外の騒ぎで、寝ていた彼女も置きだし、不安そうな顔を覗かせていた。

 

「○○さん(旦那)…あんた、ドルイドの何かやってるんじゃないでしょうね」

「は…?何ですかそれは」

「とぼけたって良いんですよ?裏の森のクヌギ。良い薪になりそうだなぁ」

「な…何を言うんですか!!」

「あんた、俺らをウィッカーマンにして、捧げようとしたんじゃないのかっ!?」

「…」

本当の事を言わないのなら、クヌギを切り倒す、と脅した叔父に対し、旦那は全てを話し始めた。

 

前にも述べた通り、この夫婦には重い病気の息子がいる。

治療法は、病の進行を遅らせる、強い副作用のある方法しかない。

あらゆる方法を試したが、病は一向に癒える気配は無かった。そんな藁にも縋る思いも極まった時の事。

15年前、仕事先で訪れたウェールズのある村で、ドルイドの呪術師に出会ったと言う。

そのドルイドの呪力が篭ったオークの木の苗を、大枚叩いて旦那は買い、日本へ持ち帰った。

そのドルイドから授けられた秘術は、毎月6日に、白い衣装を見に付けオークの木に登り、ドルイドから譲り受けた(これも大枚叩いて買ったらしい)鎌でオークに寄生しているヤドリギの枝を切り取り、「生贄」をオークの木に捧げる、と言うものらしい。

その祭儀の見返りの願いは言うまでも無く、息子の病を治す事、だ。

「確かに、その日は1月6日だったなぁ…」

「生贄って…」

俺は恐る恐る叔父に聞いた。

「最初は、小動物とかだったらしいよ。ハムスターとか、野良猫とか、犬とかな。クヌギの木の根元に埋めて。心なしか、大きな動物になればなる程、息子の病が(良くなっている様な気がした)らしい。まぁ、そのドルイドに1杯食わされたんだろうけどな。でも病気の子供を持つ、悲しい親の愛とは言えども、 あんまりじゃないか?俺らを焼き殺そうとするなんて」

叔父は笑いながら言った。それから、懇々とその旦那を説き伏せたらしい。

 

人を呪わば穴二つ。そんな事をしても、何も良い事はない。

オカルト方面に詳しい叔父だけに、様々な知識も動員して、旦那を説き伏せた。

「50にもなろうかと言うオッサンが、声上げて泣いてたなぁ。まぁ、俺らも殺されそうにはなったとは言え、その旦那の気持ちも分からんでもないからなぁ。同情心もあって。彼女も少しもらい泣きしてたかな。旦那も、クヌギも別荘も処分する事を約束してくれてな。明日にでも、特にクヌギの処分は俺ら同伴で」

「じゃあ、この件は、警察沙汰にもならずに一件落着、と」

「ところがなぁ。あのオークは(本物)だったんだなぁ」

 

何とか旦那を説き伏せて、暖かいコーヒーを飲みながら、3人が落ち着いてきたその時。

旦那の携帯が鳴った。奥さんの声が否が応でも聞こえてきたと言う。ヒステリックな金切り声だ。

明らかに「殺したの?捧げたの?やったの?」と傍の叔父にも聞こえて来たと言う。

あんなに温厚に見えた奥さんの方が、実はこの件では主導権を握っていたのだ、と思いゾッとしたと言う。

奥さんは東京のマンションから電話をしているらしい。

旦那は、ある程度は言い返してはいたが、奥さんの凄い剣幕に終始押され気味だったと言う。

たまりかねて叔父が電話を変わり、物凄い口論となった。それは、一時は殺されそうになり、まだ片方が殺意を剥き出しにしているのだから、激しい感情のぶつかり合いになるのは至極当然だろう。

叔父の彼女も、先ほどの涙とはうって代わり、叔父に負けじと口論に加わったと言う。

「こりゃ将来尻に敷かれるなぁ、と思ったね、その時は」

叔父は苦笑しながら言った。確かに今は尻に敷かれている様だ。

やがて、叔父がたまりかねて、警察、裁判沙汰、をちらつかせる様になると、やっと奥さんも大人しくなり、しぶしぶ旦那の話も聞くようになってきたと言う。

一応、いざこざの一段落はついた。流石にその日は深夜になっていたので、その別荘で休む事になった。

「一応さ、話はついたけど、まさか眠るわけには行かないよな。あんな事されそうになって」

暖炉の広間で、叔父と彼女が身を寄せ合って座り、離れた場所に、旦那が申し訳なさそうに座っていた。

「明日、旦那の知り合いの業者に手伝ってもらい、クヌギの木は切り倒す事を約束してもらったからさ、それを見届けるまではな」

3人ともその日は寝ずに、朝を迎える予定だった。夜もさらに深まった午前3時頃だったと言う。

 

「ザッ ザッ ザッ」

と、森の奥から何かが近づいてくる音が聞こえた。野生の動物か、野犬か。

コックリコックリと船を漕いでいた叔父も、その音に目が覚めた。

「明らかに人間に近い足音と気づいた途端、ゾッとしたね」

最初は奥さんが来た、と思ったらしいが、あの電話を終えてからこんな短時間でここまで来れるわけがない。

 

いや、あの電話は実は近くからかけていたとしたら…もしくは、他に仲間がいたとしたら…?

叔父は寒さなどお構い無しに、全ての窓や戸を開け、アウトドア用のナイフを手に、臨戦態勢で息を殺していた。

 

「ザッ ザッ ザッ」と言う音は一向に止む事はなく、明らかにこの小屋に向かっている。

「それから10分後くらいかな。もうな、普通にこの小屋を訪ねて来るように、玄関の戸に立ったんだよ。足音の主が」

「○○?(妻の名前)」

と旦那が叫んだ。が、すぐ、驚愕から恐怖の悲鳴に変わった。

 

「奥さんの様で、奥さんじゃないんだよ。顔は、ほとんど同じなんだな。だが生気が無いと言うか。で、この真冬に素ッ裸だぜ? でな、最初は旦那は(妻の様なモノ)の裸に驚いて声を上げたと思ったんだよ。違うんだよな。肌の質感も色も、木、そのものなんだよ。で、もっと怖かったのは、左右の手足が逆についてるんだよ。分かるか? それが玄関に上がって来ようとしてな、右足と左足が逆なもんだから、動きがおかしいんだよ。上がり口に何度もつっかえたりして。それが何よりおそろしくてなぁ」

確かに想像するだけでもイヤな造形だ。

 

「彼女は絶叫してたな。旦那も。明らかに、妻じゃないって確信したと思う。でもな、一応人間の形はしてるんだからさ。刺せないぜぇ?なかなかそんなモノを。やっぱ、人間の心ってリミッターあるからさ。もし人間だったらどうしよう、とか思うよ」

それは確かに分かるような気がする。

「でな、その(妻の様なモノ)がとうとう小屋の中に入ってきて、何か言うんだよ。それも、何言ってるか分からなくてな。カブトムシの羽音みたいな音を喉から出して。で、左右逆の足でヨタヨタしながら、俺の方に向かって来るわけだ。しかし、俺も真面目なもんだよなぁ。それでも最後に一応、○○さんですかっ!?って聞いたよ。さっきのリミッターの話な。それでも、ソイツは虫の羽音の様な耳障りな音を喉から発して、これまた左右逆の両腕を伸ばし、俺の首を絞めてきたもんだから、思いっきりソイツの腹を前蹴りで蹴ったよ。すると、腹がボロボロ崩れて、樹液みたいな液を撒き散らし、腹に空洞が出来てやんの。それで決心出来たんだよな。あぁ、これは人間じゃないから、ヤッちゃって良いんだ、ってな」

と、豪快に笑いながら叔父は言った。こういう時の度胸を決めた叔父は、本当に頼もしく見える。

不気味な声を発しながら、ソイツは起き上がって来たらしい。叔父は、ナイフをソイツの脳天に1発、もう1度蹴り倒したら、空洞の腹を貫通し、胴体が千切れたらしい。

彼女と旦那の絶叫が一段と激しくなったと言う。

 

「で、腹の中から異臭のする泥やら、ムカデやら色んな虫がワラワラ出てきてさ。もう部屋中パニックだったな。床に倒れたソイツの人型も段々ボロボロと崩壊していって、床には泥と虫だけが残ったね。気持ち悪くて、ほとんど暖炉に放り込んだな。突立てたナイフがいつの間にか消えてたのが気になったけどな」

 

その凄惨な格闘が終わり、全ての残骸を暖炉に投げ込んだ後、すぐさま旦那に妻へと電話をさせたらしい。妻はすぐに出た。

「妻は死んでいた!とかやはりそういうのは心配するだろ、形が形だけに。元気だったけどな。まぁキョトンとしてたな。流石に今起きた事は言わなかったけどな。後で旦那が話したかどうかは知らないが…でも、流石に全て終わった後に恐怖が襲って来たね。手足とか震えて来てな。彼女はずっと泣いてたな。で、1番怖かったのは、彼女が暫くして変な事言い始めたんだよな。何でアレに○○さんですか?と問いかけたのか、と。変な事聞くなぁ、と思ったね。顔ははどう見てもあの奥さんなんだから」

 

「で、どういう事だったのかな?」

俺が聞くと、叔父は気味が悪そうにこう言った。

「よく、自分の形をしたモノの頭にナイフなんて突き立てられたね、って彼女はこう言ったんだよ。つまり、彼女にはあの化け物が、俺の姿に見えてたんだよな」

叔父が想像する所は、次の様な事らしい。古代ドルイドの秘儀で、オークの木に邪悪な生命が宿った。

それに、あの妻の怨念も乗り移り、生贄が止まった事に見兼ねて、自ら実体化して現れた、と。

そして、見る対象者によっては、あの化け物が様々な姿形に見えるのではないか、と。

 

「翌日、日が真上に昇るまでまって、あの木を見に行ったよ。木の表面が、2cm程陥没してて、1m60cmくらいの人型になってたな。そして、頭部らしき箇所に俺のナイフが突き立ってたな」

やがて、夕方になり旦那の知り合いの業者がやってきて、クヌギを木を切り始めたと言う。 

「最初にチェーンソーが入るときと、木が倒れる時。完全に聴こえたんだよ。女の絶叫がね。俺と彼女と旦那だけ聴こえた様子だったな。で、切り株と根っこまで根こそぎトラックに積んでたんだが、小動物の骨が出るわ出るわ。業者も帰りたがってたな。さっきの人型と良い、そりゃ気味悪いよな。まぁ、人骨が出なかっただけマシかぁ?」

後日、隣の夫婦がそれなりの品物を持って謝罪に訪れたと言う。

「受け取ってすぐ捨てたけどなぁ。やっぱり、色々勘ぐってしまうよな」

そして、すぐ夫婦は引っ越し、叔父たちもその後すぐにマンションを引き払ったらしい。

暫くして、叔父は彼女とは一時別れてしまったそうだ。

 

「そんな事もあったねぇ」

紅茶を飲みながら、叔母が懐かしそうに言った。

「そうだな…あぁ、そう言えば…」

叔父が庭の木を見つめて呟いた。

「ウチにもオーク、ナラのカシワの木があったな。縁起物だから、新築の時植えたんだがな。まぁ、アレだな。モノは使い様と言うか…人間の心次第と言う事かな。それがプラスかマイナスかで。有り様が変わってくるからな」

そして、叔父の話は終わった。今度来るときは、カシワの葉で包んだ柏餅をご馳走してもらい事を約束し、その日は叔父夫婦の家を後にした。

 

補足

ドルイドとは、ケルト人社会における祭司のこと。

Daru-vid「オーク(ブナ科の植物)の賢者」の意味。

ドルイドの宗教上の特徴の一つは、森や木々との関係である。

ドルイドヤドリギの巻きついたオークの木の下で儀式を執り行っていた。

柳の枝や干し草で作った編み細工の人形を作り、その中に生きたまま人間を閉じ込めて、火をつけて焼き殺し、その命を神に奉げるという、人身御供の祭儀も行っていた。

刑罰の一種として、森林を違法に伐採した場合、樹木に負わせた傷と同じ傷を犯人に

負わせて木に縛り付け、樹木が許してくれるまで磔にするという刑罰もあったという。

 

 

(了)

 

引用元:

【閲覧注意】死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?『盗まれた人形・ドルイド信仰』:哲学ニュースnwk