UNeCORN

古今東西の不思議なものを集めて展示するWEBアーカイバ・UNeCORN(ユネコーン)

古着

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よくネットで買い物をするのだが、最近はDVDなんかも発売したばっかのヤツがネット上でかなり安売りされていたり、購入の操作自体も簡単で一度登録しておけば、俗にいうワンクリックで即座に完了するので非常に便利でついつい要らんものまで買ってしまう事が多くなった。

 

だけど、今でも絶対に買わない物がある。

 

女の子と違って、ファッションに関心の有った若い頃なら別だが、結構洋服を買いに行くのって面倒なんだよな。いざ店に入っても気に入った商品が無かったりすると、もう一軒行こうなんて気力がなくてこれで良いか、なんてその店で決めてしまう。

その時も、休日に買い物に行こうかどうか考えていたんだが、ふとネットで探してみようか、と思い立った。

 

洋服っていうキーワードで検索すると、出てくる出てくる、もの凄い量。

「こりゃ、良いや」って、普段の洋服屋の店頭じゃお目にかかれないカタログから選べる様な感じも楽しい。

 

コートが見つかった。デザインも気に入ったし、値段もそこそこの感じだ。

早速例のワンクリックをしようと思って、商品説明をもう一度見てみると『中古良品。目立った傷等はなし、クリーニング済み』とあった。

 

「中古品か……」と一瞬迷った。DVDなんか中古だろうと画像がちゃんとしてりゃ問題ないけど、服は他人が着ていた物だし、どうするか?

少々悩んだけど、結局購入する事にした。

 

一週間後、宅急便でコートが到着した。

洋服の中古品、要するに古着を買ったのは始めてだし、結構緊張して商品をチェックしてみた。

 

キズは無いようだ。汚れも付いていない。

試しに匂いを嗅いでみたがクリーニングしたての例の匂いがするだけ。

「良いんじゃね?これ」と安心して翌日から早速会社に着て行った。

 

その夜、会社から帰宅して、財布や手帳を取り出そうと内ポケットを探った。

「あれ?手帳がねえぞ」

ビックリしてコートをまさぐると、確かに手帳らしき物の膨らみは有る。

どうしたのかと内ポケットを調べると、何の事は無い、穴が開いてやがった。

コートの裏地の中に、ポケットから滑り落ちた手帳が入っている。

 

「あちゃ~。やられたな」やっぱり古着は古着だ。安いだけ有る。

手帳を出そうと、それ以上のポケットの破れを広げない様に苦心して手を突っ込むと、手帳以外に紙切れが入っていた。

よくティッシュなんかを入れたままクリーニングに出したみたいに、まるまった紙切れが出てきた。

 

「ちぇ、オマケ付きだ。ゴミが入ってやがる」

 

破かない様に、紙切れを広げてみた。

それは、何かメモ帳の様な物が数枚と、レシートが一枚だった。

かすれた鉛筆で書かれた文字と数字がビッシリと書かれていた。

 

『○○金属¥250,000』とか『○○インダストリー¥500,000』

とかが縦に書かれて、その横に×印が書いてあった。

 

翌日、会社の同僚と居酒屋に行ったときに、この古着とゴミの話をした。

ひとしきり失敗談に笑っていた同僚が調子に乗って

「そりゃ絶対にサラ金の取立てメモだ。借金したヤツの恨みがこもってるぞ」

とか言うので、調子に乗った俺は

「ほら、こいつが呪いのメモ帳だ」

と、例の紙切れをテーブルに放り出した。女の子がキャーキャーと騒ぐ。

 

すると、紙切れを見ていた同僚の一人が言った。

「これ、本当にサラ金か?」

「このリストって会社ばっかだろ?個人名が書いてねえしだいたいサラ金って、銀行からも取立てんのか?」

言われてみれば、リストには銀行と信金とかも書かれている。

「こりゃ、借金は借金だけど、サラ金の取立てじゃなく借りようとしてる奴のメモじゃねえの?零細企業の社長とかさ」

メモにある無数の×印は、取立てが失敗したのではなく、借金を頼んで断られた印で、数少ない○印は何とか借りられたって事じゃないかと言う。

計算すると、×が約1200万、○は300万で、殆どが×印だった。

 

考えすぎかとも思ったが、メモにある数字と×印がふるえているのを見ると、零細企業の社長が寒空の下で、倒産の恐怖に震えながら得意先に頭を下げに駆け回って、ダメだった結果を鉛筆で書いているシーンが浮かんで来てしまう。

 

悩んだ末に、結局コートは捨てた。それ以来古着は買わない。

翌日になって、ふとゴミ箱に捨ててあった例のレシートを見たからだ。

一枚と思ったレシートは、実は二枚で、水にぬれたか何かでくっ付いていたのだ。

 

1995年12月24日、23時の日付のあるコンビニのレシートにはコーヒー3本と肉マンが3つと印刷されていた。イブの夜中にコーヒーと肉マンを食べていた様なのだ。

そしてもう一枚には、翌日の25日、ファミレスでステーキ二つとお子様ランチの3名の記録が載っていた。

 

そもそも借金云々だって単なる想像だし、この3名だって家族かどうかも分からないんだよね。

ただね、この3人がクリスマスに楽しく食事をしたとは思いたいんだよな。

最後の晩餐じゃなくて。

 

 

(了)

 

引用元:

死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?『幸せになれましたか?』:哲学ニュースnwk