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古今東西の不思議なものを集めて展示するWEBアーカイバ・UNeCORN(ユネコーン)

先祖の因果

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俺には四歳上の兄がいるんだが、その兄の話。

 

 

兄が高一の頃、突然夜中に金縛りにあうだの、うめき声が聞こえるだの、夢に落武者みたいなのが出てくるだのと言い出した。

最初、家族はみな「ハァ!?」てなもんで全然本気にしなかったんだが、そのうち体調を崩したので、近所の医者に診てもらったんだ。

そしたら盲腸炎ということで、すぐに手術することになった。

兄の手術は無事終わり、1週間で退院できる見込みだったがなぜか傷口が化膿して、なかなか綺麗にふさがらない。

入院が2週間に延び、3週間目が過ぎようとした頃、病院側から「うちでは手におえない」と言われ、そのまま国立病院へ転院したんだ。

そしてすぐに再手術。10時間にも及ぶ大手術だったらしい。

腸の一部が壊死してしまっていて、兄は一時マジで命がヤバかったそうだ。

父は医者から

「このまま意識が戻らなかったら、諦めてくれ」

とまで言われた。

 

その頃母はと言えば、やはり兄のことが心配でたまらなかったんだろう。

近所にとある宗教の幹部がいたので、当時入信していたこともありその人に頼み込んで、病気平癒のお祈り(?)をしてもらった。

(ちなみに今は退会しているw)

結局兄は無事助かって、1ヶ月の入院生活の後退院したわけだが当時俺は、母からこんな話を聞かされた。

 

兄のために祈ってくれた宗教の先生の話によると、父方の先祖に因縁のある武士の霊が、兄貴にとり憑いて苦しめていたんだと。

こういうケースはままあることで、たいてい家族の中で一番弱い人間に出る。

うちの場合は、たまたまそれが兄だった。

ちゃんと説得しておいたのでもう大丈夫とのこと。

 

なんかありがちで出来すぎた話だと思ったが、兄の病気が治ったのも事実だったので

俺は素直に納得したんだ。

 

ところが、その頃から兄の性格が変わった。

優しくて温厚だった兄が、攻撃的で執念深く、いつも怒ってばかりいるようになった。

俺は兄によく難癖つけられて、事あるごとに虐められた。

当時、兄は高校で酷いいじめを受けていて、ストレスの矛先が俺に向かっていたんだと思う。

ちなみに兄を虐めたヤツは大学に進学してからも、これと決めたターゲットを徹底して攻撃しついには中退に追い込んだサイテー野郎だ。

親と教師の協力で、一応虐めが沈静化した後も、兄の性格は戻らなかった。

とにかく、その後の兄はついていない。

高校を卒業した後、就職しても職場内の人間関係が原因で辞めてしまう。

そんなことが何回か続いた。

さらに、兄がとある似非宗教にはまったことがきっかけで家族ともうまくいかなくなり、性格がますます攻撃的に歪んでいった。

誰の言葉も聞き入れず、好意を好意と受け取らず、忠告は自分に対する攻撃と受け止めて、誰に対しても激しく非難するようになった。

 

結局、半ば勘当みたいな形で家を出、アパートで一人暮らしを始めたんだが

何もかも思うようにいかず、ひきこもり状態になっていったらしい。

 

アパートの管理人から連絡を受け、父が兄を迎えに行った。

兄は半ばノイローゼ状態で、押入れの中からなかなか出てこなかったそうだ。

家に帰ってからもすぐに天井裏に逃げ込み、降りてこようとしなかった。

精神科の医者に診てもらうことも考えたが、兄は頑として了承しない。

家族一同困り果てていた時、親戚がボランティアみたいな療法士を紹介してくれた。

山奥の田舎で開業しているんだが、医者ではない。

患者の話を聞き、マッサージや鍼灸…? その辺のことはよく知らないんだが

まあ、そのようなことをして、その人に合った漢方薬を処方してくれるんだそうな。

金は、ほんの謝礼程度しか受け取らないので、地元では結構評判だったらしい。

そこに行ってから、兄の様子が少し落ち着いた。

 

その頃になって母が、兄が大病したときに祈祷してもらった先生から聞かされた話を

俺にくわしく教えてくれた。

 

父方の先祖は昔、かなり大きな武家だったそうだ。

だが何代前かは知らないが、大失態をやらかして、このままだと御家断絶になりかねないという事態に陥ったらしい。

その時先祖は何をしたかというと、家来の一人に因果を含めそいつに罪を全部ひっ被せて切腹させたんだ。

自分の身代わりに切腹させる代わりに、その家来の幼い息子を取り立て成長したらちゃんと家を継がせて、存続させてやるという条件で。

 

だが先祖は約束を守らなかった。

それどころか家来の幼い息子も妻も、一族みんな殺してしまいその財産を全部自分のものにしてしまったんだと。

ひどい話だよな。

 

兄にとり憑いたのは、その家来の霊だったんだ。

そいつが

 

「許さない絶対に許さない。憎い憎い。こいつにも俺と同じ苦しみを味あわせてやる。腹を切らせてやる。そして殺してやる」

 

と言っていたんだ。

祈祷してくれた人が

「もう二回も腹を切らせたのだから、これで勘弁してやりなさい」

みたいな事を言って、とにかく説得してくれたのだとか。

 

なんで今ごろになってそんな話が出たのかというと、兄が診てもらった民間療法の先生(うまい言い方がみつからない)が診察中に言った言葉が原因だ。

 

その先生は、兄の腹の手術痕に手を当てながら

 

「この奥に固く凝り固まった小さな塊のようなものがあって、“憎い憎い…許さない許さない…”と言いつづけている。そのせいで、人の優しさや暖かさを心に伝え、また自分からも優しさを伝達するためのパイプが細く細く狭まってほとんど感じられないようになってしまっている。過去に誰かにひどい仕打ちをされたのだろうが、いい加減それらを許してはどうか」

 

と兄に言ったんだ。

兄は驚いて「それは先祖の祟りと関係があるんですか?」と尋ねた。

その先生は

「私は拝み屋ではないので、祟りや幽霊といったことはわからない。だが人を許せるようにならないと、自分の心もいつまでたっても辛いままだ」

と。

それに対する兄の答えは

 「自分にされた仕打ちは絶対に許すことができない。そいつが生きている限り、一生憎み続けてやる」

 

この話に特にオチはない。

兄の攻撃的な性格は相変わらずだ。

俺は兄とは距離をとっているので、特に会話することもない。

兄も含め、うちの姓を継ぐはずの数少ない男は、いずれも結婚しそうにない。

ゆるやかに家が消えていくようなかんじだよ。

まあ、それも自然の流れだとは思っているが

先祖代々の墓の管理なんかはどうなるんだろうな。

 

 

(了)

 

引用元:

死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?『眼ェ返せ・膝の上』:哲学ニュースnwk